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【解説】賃料を適正水準へ。「適正賃料」の具体的な算定根拠について

不動産鑑定士の写真

【執筆・監修】
地代・家賃の鑑定相談室
不動産鑑定士 上銘 隆佑
上銘不動産鑑定士事務所 代表

はじめに:なぜ今、賃料の「適正化」が重要なのか?

福岡市内で不動産を所有するオーナー様から、「周辺の家賃は上がっているようだが、自分の物件の賃料を上げるべきか判断できない」「値上げをしたいが、借主とのトラブルは避けたい」といったご相談が急増しています。

例えば福岡市では、「天神ビッグバン」や「博多コネクティッド」といった大規模再開発の影響で、福岡市中心部の土地価格上昇は著しく、建築費の高騰による建物価格上昇も続いています。

これに伴い、固定資産税や維持管理費といったオーナー様の負担は年々増加しているのが実情です。

このような状況下で、所有する不動産の収益性を維持・向上させるためには、現在の賃料が市場に見合っているかを見極める「賃料の適正化」が不可欠です。

しかし、単に「コストが上がったから」という理由だけでは、借主の理解を得ることは困難です。

そこで重要になるのが、不動産鑑定士が用いる客観的かつ論理的な手法に基づいた「適正賃料の根拠」です。

本記事では、賃料値上げの土台となる「適正賃料」がどのように算定されるのか、その具体的な手法と根拠を徹底的に解説します。


1. 「適正賃料」を構成する2つの視点:「新規賃料」と「継続賃料」

「適正賃料」と一言で言っても、不動産鑑定の世界では大きく2つの種類に分けて考えます。

この違いを理解することが、賃料問題を解決する第一歩です。

  1. 新規賃料 新たに賃貸借契約を結ぶ際の賃料を指します。これは、周辺の新しい募集事例や市場の動向を直接的に反映した、いわば「時価」の賃料です。市場が上昇局面にあれば、新規賃料も上昇します。
  2. 継続賃料 既に契約関係にある貸主と借主の間で、契約更新などの際に改定される賃料を指します。これは、契約当初からの経緯や、貸主と借主双方の事情も考慮されるため、必ずしも新規賃料(時価)と一致するわけではありません。

オーナー様が既存の借主に対して賃料の値上げを求める場合、それは「継続賃料」の増額交渉にあたります。

しかし、その交渉を有利に進めるための最も重要な根拠となるのが、「もし今、この部屋を新規で貸し出したら、いくらの賃料が取れるのか」、つまり新規賃料なのです。

現在の新規賃料が、契約中の賃料よりも大幅に高いことを客観的なデータで示すことができれば、それは賃料増額の極めて有力な根拠となります。

したがって、私たちの鑑定業務では、まずこの新規賃料が重要な調査対象となるのです。


2. 新規賃料の算定方法:客観的な根拠を示す2大手法

それでは、賃料増額の出発点となる「新規賃料」は、具体的にどのように算定されるか、についてです。

不動産鑑定士は、主に以下の2つの手法を組み合わせて、客観的で公平な賃料を導き出します。

手法①:積算法(せきさんほう)

積算法とは、オーナー様(貸主)の視点に立ち、「不動産に投下した資本(コスト)に対して、どれくらいの収益(賃料)を得るのが妥当か」を計算する手法です。

計算式は以下の通りです。

賃料 = 基礎価格 × 期待利回り + 必要諸経費等

一見難しく見えますが、要素を分解すれば非常に論理的です。

  • 基礎価格(きそかかく) これは、土地と建物の現在の価値を指します。福岡市のように土地価格上昇が続くエリアでは、この基礎価格が上昇します。また、建築費の高騰による建物価格上昇も、この価格を押し上げる要因となります。つまり、オーナー様が所有する資産価値そのものが上がっていることを示す、重要な指標です。
  • 期待利回り(きたいりまわり) これは、投資家がその不動産から期待する収益率のことです。不動産市場が活況で、投資妙味が高いと判断されれば、期待利回りは低下傾向。再開発で将来性が見込まれる天神や博多エリアでは、この数値も低く評価される可能性があります(利回りが低くても好立地であれば許容するという方が増えます)。
  • 必要諸経費等(ひつようしょけいひとう) 賃貸経営に必要なコストです。具体的には、固定資産税・都市計画税、損害保険料、維持管理費、PMフィなどが含まれます。これらの経費が増加すれば、当然、それを賄うための賃料も高く設定する必要がある、という論理的な根拠になります。

積算法は、オーナー様のコスト増を直接的に賃料に反映できるため、賃料増額の根拠として非常に説得力のある手法です。

手法②:賃貸事例比較法(ちんたいじれいひかくほう)

賃貸事例比較法とは、市場の視点に立ち、「評価したい物件の近くで、似たような物件がいくらで貸し出されているか」を比較分析する手法です。

これは、一般の方々が家賃を調べるときに行う感覚と似ていますが、不動産鑑定士は以下のプロセスで、より客観性と精度を高めます。

  1. 近隣の類似事例を収集 評価対象物件の周辺地域から、用途、規模、築年数、構造などが類似した物件の新規賃貸の成約事例を多数収集します。福岡市のように市場の変化が速いエリアでは、できるだけ直近の事例を集めることが重要です。
  2. 事例の情報を精査・標準化 収集した事例には、礼金や更新料が含まれている場合があります。これらの条件を標準化し、純粋な月額賃料(実質賃料)に補正します。
  3. 客観的な比較と補正 立地の利便性(駅からの距離など)、階数、部屋の向き、設備のグレード、築年数の差など、評価対象物件と収集した事例との間の優劣を客観的に比較し、価格差を補正(評点化)します。
  4. 適正賃料の査定 上記の補正を経て、比較事例から導き出された複数の賃料を総合的に判断し、評価対象物件の適正な新規賃料を査定します。

賃貸事例比較法は、「近所の新しい物件は、これくらいの家賃で成約しています」という、誰の目にも明らかな市場の事実を示すものです。

そのため、借主にとっても納得感が得やすく、円満な合意形成に繋がりやすい強力な根拠となります。


3. 不動産鑑定士が「適正賃料の根拠」をどう明確化するのか

私たちは、賃料の鑑定評価を行う際、積算法賃貸事例比較法のどちらか一方だけを用いることはありません。

  • 積算法で「オーナー様のコストや資産価値から見た適正賃料」を算出し、
  • 賃貸事例比較法で「市場の取引相場から見た適正賃料」を導き出します。

そして、これら複数の視点から導き出された結果を総合的に分析・調整することで、最終的な「適正賃料」を決定します。このプロセスにより、特定の立場に偏らない、極めて客観的で公平な結論が導き出されるのです。

この結論をまとめたものが「不動産鑑定評価書」です。

鑑定評価書には、なぜその賃料が適正なのか、その算定根拠(どのデータを使い、どのような判断をしたか)がすべて論理的に記載されています。

これは、専門家である不動産鑑定士がその責任において作成した公的な性格を持つ文書であり、単なる査定書とは一線を画します。

この鑑定評価書を提示することで、オーナー様は借主に対し、「私の個人的な感覚ではなく、第三者の専門家が市場データと資産価値の両面から客観的に判断した結果です」と、感情論ではない、根拠に基づいた話し合いを進めることが可能になります。


まとめ:感覚的な賃料交渉から、根拠ある賃料適正化へ

本記事では、賃料値上げの根拠となる「適正賃料」の算定方法について解説しました。

  • 賃料増額を検討する際は、まず「新規賃料」がいくらになるかを把握することが重要です。
  • 積算法は、土地・建物価格の上昇経費の増加といったオーナー様のコストを反映する手法です。
  • 賃貸事例比較法は、周辺の新規賃貸事例との比較により、市場の実態を反映する手法です。
  • 不動産鑑定士は、これらの手法を適用して客観的な「適正賃料の根拠」を明確化し、不動産鑑定評価書として提示します。

賃料を巡る問題は、当事者間の感情的な対立に発展しやすいデリケートな問題です。

しかし、専門家による客観的な根拠があれば、不要なトラブルを防ぎ、双方にとって納得のいく着地点を見出すことができると考えます。

地代家賃の鑑定相談室」では、不動産市場の地代・家賃に特化した情報収集を続けています。不動産鑑定士が、皆様の賃料に関するお悩みに寄り添い、説得力のある不動産鑑定評価書をご納品いたします。

まずはお気軽にご相談ください。


以上です。お読みいただき、ありがとうございました。

地代・家賃の鑑定相談室
不動産鑑定士(第10401号)
上銘 隆佑

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