
こんにちは。不動産鑑定士の「上銘(じょうめい)」です。
福岡の街は今、100年に一度と言われる再開発ブームに沸いています。
「天神ビッグバン」や「博多コネクテッド」によって、新しいビルが次々と立ち上がり、街の風景が劇的に変わっていく様は、私たち福岡県民にとっても誇らしい光景です。
しかし、不動産オーナー様、特に商業地のビルや土地をお持ちの皆様にとって、この再開発ブームは「手放しで喜べることばかりではない」というのが現実ではないでしょうか。
毎年春になると届く、あの封筒。そう、「固定資産税・都市計画税 納税通知書」です。
開封して、その金額に目を疑ったことはありませんか?
「えっ、去年よりこんなに上がってるの!?」
「賃料収入は変わらないのに、税金だけがどんどん高くなる…」
実は今、福岡市の商業地を中心に、固定資産税の負担増がオーナー様の収益を静かに、しかし確実に圧迫しています。
今回は、なぜ今、固定資産税が急騰しているのか、そしてその負担増を乗り越えるためにオーナー様が取るべき「賃料増額(改定)」の戦略について、不動産鑑定士の視点から詳しく解説します。
再開発の影で進む「固定資産税」の急騰
地価が上がることは、資産価値が上がることですから、本来は喜ばしいことです。しかし、保有し続けるオーナー様にとっては、地価上昇は「税負担の増加」に直結します。
固定資産税は、基本的に「土地の評価額(固定資産税評価額)」に基づいて計算されます。
福岡市、特に天神や博多駅周辺、そしてその熱気が波及している周辺商業地では、地価の上昇率が全国でもトップクラスです。
地価が上がれば、当然、課税のベースとなる評価額も引き上げられます。
「負担調整措置」があるから大丈夫?
「でも、いきなり税金が倍になったりはしないでしょ? 『負担調整措置』があるんじゃないの?」
そう思われる方も多いでしょう。確かに、急激な増税を防ぐために、前年度の税額から少しずつ上昇させる仕組み(負担調整措置)があります。
しかし、ここが落とし穴です。
地価の上昇スピードがあまりに速すぎるため、本来払うべき税額(本則課税)と、現在の税額との乖離が大きくなりすぎています。そのため、毎年の「少しずつ」の上昇幅が、決して無視できない金額になっているのです。
衝撃の事実! 福岡市の商業地は「東京よりも」負担増が激しい?
ここで、あまり知られていない衝撃的な事実をお伝えしなければなりません。
実は、「固定資産税の上昇リスク」において、福岡市の商業地オーナー様は、東京23区のオーナー様よりも厳しい状況に置かれている可能性があるのです。
キーワードは、「条例による上昇幅の制限」です。
東京23区の「MAX10%」条例
地価が高いことで知られる東京23区ですが、実は東京都には独自の条例(都税条例)があります。

商業地等の固定資産税・都市計画税について、前年度の税額に対する上昇幅を「1.1倍(10%)まで」に抑えるという減額措置がとられているのです。
つまり、どんなに地価が爆上がりしても、東京23区の商業地であれば、前年比で税金が10%以上増えることは(基本的には)ありません。
福岡市にはその「キャップ」がない
一方で、福岡市には東京のような「一律10%キャップ」という独自の条例はありません(地方税法に基づく通常の負担調整措置はあります)。
福岡市の商業地では、地価の急騰に伴い、課税標準額(税金の計算の元になる額)が上昇を続けています。
通常の負担調整措置の計算式に当てはめたとしても、地価上昇が著しいエリアでは、前年比で「15%以上」も税額が上昇するケースが珍しくないのです。
「東京のオーナーは最大10%の上昇で守られているのに、福岡のオーナーは15%、あるいはそれ以上の負担増を強いられる」
この事実は、オーナー様のキャッシュフローに強烈なダメージを与えます。
再開発で街が賑わうのは良いことですが、そのコスト(税金)の負担増加スピードは、福岡の方が過酷かもしれないのです。
オーナーの手取り(純賃料)が激減している
税金が上がることの最大の問題は、「純賃料(Net Rent)」が減少することです。
不動産賃貸業の収益構造をシンプルに考えると、以下のようになります。
【現行賃料(入ってくるお金)】 - 【必要諸経費等(固定資産税・修繕費など)】 = 【純賃料(手残り)】
ここでいう「必要諸経費」の代表格が、固定資産税・都市計画税(公租公課)です。
もし、テナントさんから頂いている家賃(支払賃料)が10年前と同じままで、固定資産税だけが毎年上がり続けたらどうなるでしょうか?
数式を見れば明らかです。「純賃料(手残り)」がどんどん減っていきます。
額面は同じでも、実質は「値下げ」しているのと同じ
多くのオーナー様は、「毎月同じ家賃が入ってきているから大丈夫」と考えがちです。
しかし、経費(税金)が上がっているのに売上(家賃)が変わらないということは、実質的な利益は目減りしています。
さらに、昨今のインフレ(物価上昇)を考慮すれば、お金の価値そのものも下がっています。
「家賃を変えない」ということは、オーナー様が一方的に「税負担増とインフレのダメージを全て被っている」状態なのです。これでは、健全な賃貸経営とは言えません。
オーナーは「賃料増額」を請求する正当な権利がある
では、どうすれば良いのでしょうか。
答えは一つです。「固定資産税の上昇分を反映した、適正な賃料への増額」を行うことです。
「でも、契約期間中に家賃を上げてくれなんて言ったら、テナントと揉めるんじゃ…」
「長年入ってくれているテナントさんだし、言い出しにくい…」
そのお気持ち、痛いほどよく分かります。
しかし、法律(借地借家法第32条)は、以下のような場合に賃料の増減額請求を認めています。
- 土地や建物に対する租税その他の負担(固定資産税など)の増減があったとき
- 土地や建物の価格の上昇・低下、その他の経済事情の変動があったとき
- 近隣の同種の建物の借賃と比較して不相当となったとき
つまり、「固定資産税が上がったから、家賃を上げてほしい」というのは、法律で認められた正当な権利なのです。
オーナー様の「欲」ではなく、経済活動としての「正当な調整」です。
「純賃料」を守るための交渉
何も「儲けを増やしたい」と言っているわけではありません。
「税金がこれだけ上がってしまい、以前の手取り(純賃料)を維持できなくなりました。
ついては、上がった税金分だけでも考慮して、賃料を適正化させてください」
という交渉は、ビジネスとして極めて合理的であり、テナント側も理解を示しやすいロジックです。
鑑定士を活用するメリット:感情論ではなく「数値」で交渉する
とはいえ、いきなりオーナー様が「税金が上がったから家賃を上げる!」と言っても、テナント側も簡単には首を縦に振りません。
「再開発で儲かってるんでしょ?」と誤解されたり、「今のままで十分高い」と反論されたりすることもあるでしょう。
そこで役に立つのが、私たち不動産鑑定士による「継続賃料鑑定」です。
① 「スライド法」で税負担増を明確に示す
不動産鑑定評価基準には、継続賃料(今のテナントさんとの家賃改定)を求める手法がいくつかあります。
その一つに「スライド法」というものがあります。
これは、契約時点から現時点までの間に、「物価」や「固定資産税」などの経済指標がどれくらい変動したかを指数化し、今の家賃に反映させる手法です。
鑑定評価書の中で、「契約当初に比べて、物価に加えて、固定資産税等の公租公課もこれだけ上昇しています。したがって、スライド法に基づくと、今の賃料はこれだけ上げなければ計算が合いません」と数値で示すことができます。
② 「差額配分法」で資産価値に見合った賃料を示す
また、「差額配分法」という手法では、現在の土地・建物の価格(資産価値)に対して、期待されるべき適正な利回りによる正常賃料と現行家賃との差額を計算します。
福岡市のように地価(元本価格)が急上昇しているエリアでは、昔の家賃のままだと、賃料差額が大きくなっているケースが多々あります。
「周辺家賃がこれだけ上がっているのに、今の家賃では適正な水準から乖離しています」という主張も、鑑定評価書があれば説得力が段違いです。
③ 第三者の「お墨付き」がクッションになる
オーナー様が直接「値上げ」を口にするのは角が立ちます。
しかし、「顧問の不動産鑑定士に試算してもらったら、今の家賃は相場より安すぎると指摘された。税金の上昇分もカバーできていないようだ」という形で、鑑定評価書(または調査報告書)を提示すればどうでしょうか。
交渉のテーブルには「オーナーの感情」ではなく、「国家資格者による客観的なデータ」が乗ります。
これにより、テナント側も「オーナーのわがまま」ではなく、「経済情勢の変化によるやむを得ない改定」として、冷静に検討せざるを得なくなります。
まとめ:動かなければ、収益は減り続けるだけ
福岡市の再開発はまだまだ続きます。それはつまり、今後も固定資産税の上昇傾向は続く可能性が高いということです。
東京23区のような「10%キャップ」に守られていない福岡市のオーナー様こそ、自らの資産を守るために能動的に動かなければなりません。
「何も言わずに我慢する」ことは、現状維持ではありません。
税負担増とインフレによって、実質的な収益は毎年削られ続けているのです。
- まずは納税通知書を確認してください。 数年前と比べて、どれくらい上がっていますか?
- 次に、現行賃料と比較してください。 賃料収入に対する税金の割合(公租公課倍率)が悪化していませんか?
- そして、不安を感じたら不動産鑑定士にご相談ください(無料)。
私たち「不動産鑑定士」は、単に鑑定評価書を作成するだけでなく、オーナー様がテナント様と円滑に交渉を進めるためのロジック作りや、アドバイスも行っております。
「いきなり鑑定はハードルが高い」という場合は、簡易的な賃料診断や、税負担増を考慮したシミュレーションのご相談からでも構いません。
大切な不動産の収益力を維持し、次世代へ健全な形で引き継ぐために。
固定資産税の上昇に負けない、強い賃貸経営を一緒に構築していきましょう。
以上です。お読みいただき、ありがとうございました。
地代・家賃の鑑定相談室
不動産鑑定士(第10401号)
上銘 隆佑
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地代・家賃の鑑定相談室(運営:上銘不動産鑑定士事務所)
※初回のご相談は無料です。納税通知書をお手元にご用意の上、お気軽にご連絡ください。
地代・家賃の鑑定相談室 – 不動産鑑定士が適正賃料の根拠を明確にし、賃料トラブルを防ぐ。

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